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家族信託という選択(5)

2020年9月10日

【家族信託を利用した不動産共有問題の解決】

家族信託を利用することによって、共有や土地の分割等で複数の所有者名義になり複雑化した不動産の権利関係の解消をすることができます。

1.相談内容

長男A(75才)からの相談です。父母からの相続の際、1筆の土地を2筆に分筆し、長男A、次男B(72才)がそれぞれ相続しましたが、道路に接面している部分はB名義の土地、A名義の土地はBの土地を介してしか道路に接面しない無道路地となっています。土地を高く売却するためには、2筆を1つの土地として処分する必要があります。また、それぞれA・Bにはそれぞれ子供がいますが、皆独立し、自宅を所有しています。

兄弟ともしばらくは自分の所有地にあるそれぞれの住宅に住む予定ですが、将来施設への入居や子供との同居などを検討しており、その段階になったときには、2筆の土地をまとめて売却する方向で兄弟の意思は統一されています。しかし、それぞれ高齢になってきたこともあり今後の管理が心配です。

 

2.何もしなかった場合

A・Bは何年か先に認知症など、意思判断能力が失われる状態になってしまう可能性があり、その場合には不動産の管理、処分などができなくなることや、それぞれの家族に相続が発生してしまうと不動産の名義が細分化してしまい、権利関係がより複雑になるリスクがあります。

 

3.成年後見制度を使った場合

兄弟のうち1人が意思判断能力を喪失し、成年後見制度を活用した場合には、それなりの資産があるため、親族が成年後見人になれず、弁護士、司法書士等の専門家が成年後見人になる可能性が高くなり、本人にとって意味のある合理的な理由のある支出しか認められず、売却ができなくなる可能性が高くなります。

任意後見を活用すれば、あらかじめ任意後見人を指定することができますが、任意後見発効後は、任意後見監督人が選任されるため、成年後見と同じく財産管理については任意後見監督人に対する定期的な報告が必要となり、売却ができなくなる可能性が高くなります。

 

4.遺言を使った場合

兄弟でそれぞれの家族に対する遺言を作成することで財産の承継先を決めることができますが、​共有対策とはなりません​。また、遺言はいつでも撤回できること(民法1022)、遺言には生前の財産管理機能がないことから、認知症​対策となりません。​

 

5.家族信託を使った場合

A・Bには、自分たちの世代で土地を売却し、子供の世代には問題を引き継がせたくないとの強い意向があります。そのため、①委託者兼受益者をA、受託者をAの子、最終的な財産の帰属者(帰属権利者という)をAの子、信託財産はAの自宅と金融資産、信託期間をA及びBの自宅売却処分完了時までとする信託契約、②委託者兼受益者をB、受託者をAの子、帰属権利者をBの子、信託財産はBの自宅と金融資産、信託期間をA及びBの自宅売却処分完了時までとする信託契約を2本締結します。この場合、受託者(土地を処分する権原を有している人)は①・②ともAの子であるため、一括で土地を高く売却することが可能となり、共有問題も解決できます。

 

(こちらとほぼ同様の内容はOITA CITY PRESS 2020年9月号に掲載されています)

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